2021/08/28 14:27

 閑谷学校」の学びの精神を引き継ぎ、地域との関わりを重視しながら、自ら学び、自ら考える姿勢と、問題を解決していく力を身につけることを目標に、岡山県立和気閑谷高等学校で実施されている『閑谷學(しずたにがく)』。2020年度から講師としてお邪魔している授業も、無事2シーズン目を終えることができました。


 2020年10月、シーズン2最初の授業は前年度からの引き継ぎで、先輩から後輩たちに向けて、シーズン1で取り組んだ内容の発表がありました。彼らのグループは備前焼のカラーリングをテーマに、素材探しと実験を行いながら、うつわを開発。テレビや新聞などにも取り上げていただくなど、大変素晴らしい活躍を見せてくれました。 


 続くシーズン2は、女性6名のチーム(この時は1名欠席)。まずは方向性を決めるために、話を聞いてみると…。
「備前焼の歴史とか技法に興味ある?」
「…ない」
「調べてみようとかは思わないよね?」
「…うん」
「どうやったら色が出るかとか、前のグループみたいな実験は?」
「…うーん」
「じゃあ、やってみたいことは?」
「作ってみたい!」


 ということで、まずは生徒たちを工房に招待して、電動ろくろを使った作陶をしてもらいました。全員、ろくろに向かう姿は真剣で、「これくらい学校の授業でも集中しろよ!」というジョークにも付き合ってくれず、また、いつも前髪の決まり具合を気にしている子が、顔に泥がついても気にしないくらいに、土との格闘を楽しんでくれました。

 備前焼について伝えたいと一方的になっても、相手が聞いてもらえる態勢にないと意味がありません。今回のグループでは、彼女たちが興味を持っている「作る」ことを通して、新しい発見をしていこうということになり、調べ学習はそこそこに、作業を重ねて行きました。途中、窯焚きや新型コロナウイルス感染症の拡大、集中豪雨などで、授業へ伺えないこともありましたが、彼女たちとしかできない良い授業になったと思います。


 学校での授業。まずは、イギリス・Haeckels(ヘッケルズ)社より、オファーをいただいた、お香立やアロマキャンドルの蓋などを考えてみることに。実物を見ながらデザインを考え、カタチにしていきました。彼女たちからアイデアをもらった後も、引き続き、協議とサンプル制作を重ね、一つは完成形に漕ぎ着けることができました。


 その第一弾は、お香立。前回グループの成果をもとに日生のアマモと備前粘土を混ぜ合わせ、成形、薪窯で焼成しました。ちなみに、発売はもう少し先になりますので、今少しお待ちいただければと思います。また、Haeckels(ヘッケルズ)社とのコラボは、第二弾、第三弾と準備中です。和気高の生徒たちと作り上げたコラボレーション。今後も楽しみにしていただければと思います!


 また今回のグループは、2021年3月5日(金)に岡山県立岡山操山高等学校で開催された「未来航路課題研究発表会」に招待したいただき、「備前焼を盛り上げる方法を考え、実践する」をテーマに、ステージ発表を行ってくれました。大人になっても大勢の前で発表する機会はなかなかありません。今回は2名が代表して発表を行ってくれましたが、この経験は必ずや彼女たちの将来にプラスになることと思います。
※ 写真:岡山県立和気閑谷高等学校ホームページより


 その後も「作る」ことは続き、今回のメインテーマでもあった「かわいい色の備前焼を作りたい!!」を実践。手回しろくろを使って、思い思いのカタチを作ってもらいました。最初に体験してもらった電動ろくろとは、また違った手法なので、それぞれ感じることもあったようです。



 作品は電気窯で焼成。約800度で焼成を行うと、灰色っぽい色が、ベージュ色に変わります。そうすると吸水性を保ちながらも、水に溶けるようなことはなくなり、色を付けやすくなります。備前焼というと「色を塗ったり、絵を描いたりしない」ということが当然のように思われますが、備前焼を知らない彼女たちの前ではその当然は通用しません。こちらとしても良い学びの機会ということで、できるだけ備前焼の伝統に即したカラーリングを、と考えさせていただきました。


 準備したのは、顔料を混ぜた化粧土です。備前焼は古く「塗土(ぬりつち)」という技法を用い、表面の景色を変化させることを狙ってきました。その技法は「黒備前」や「伊部手」と呼ばれることもあります。さすがに、これらを使って備前焼、というのは大いに違和感がありますが、備前焼の今後に向けて、何かヒントになればと思っています。


 作業は至って真剣に。それぞれが制作した作品にカラーリングを行なっていきます。色の調合は絵具と同じなので、紫が欲しければ、赤と青を、ピンクならば、赤と白を混ぜるなど、応用も自由です。備前焼の作業ではありえない光景なだけに、大変新鮮に感じながらも、「これが一番楽しい。」という正直な感想には、考えさせられるものがありました。こちらも日々、勉強です。

 なかなかの迷品も生まれました。白塗りに顔。備前焼の「び」の字も感じさせないカラーリングが、新しい息吹を感じさせます。


 …で、裏側。表が姫で、裏が殿、ということらしいです。 

 ただ、全員がべっとりカラーリングをしたかというと、そうでもなく、6名中3名の生徒は、「このままの方がいい」と色を塗らない作品を残したのもまた事実。中にはワンポイントで彩色をしたり、筆で飛ばしてみたりと、さまざまなパターンも試してくれました。


 最後の授業では、焼き上がった作品を、サンドペーパーで手入れ。発表に向けての準備をしました。
 残念なことに、新型コロナウイルス感染症の拡大もあり、成果発表は学内関係者のみで実施となったため、その勇姿を見ることはできませんでしたが、しっかりと発表をしてくれたことと思います。

「かわいい色の備前焼を作りたい!!」

 彼女たちとの取り組みは、当たり前に進む備前焼の授業よりも、エッジが効いていただけに、たくさんの発見がありました。学び多き「閑谷學 シーズン2」貴重な機会をありがとうございました!


〈経過報告 〜『閑谷學』のその後 〜 〉

 シーズン1でテストを行った「日生牡蠣殻」。この度、その成果を活かしたプレートが完成し、備前市日生町の頭島に新しくオープンした「キッチン星の」さん(ひなせうみラボ内)で使用していただくことになりました。8月27日(金)より営業しておりますので、ぜひ足を運んでいただければと思います。





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